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ひょええええええ!

  • 2011/03/15 15:17
  • Posted by : みくる
 バレンタインとホワイトデーの盛り上がりも、今日で一段落。先月の今頃は、SOS団も涼宮さんと一緒に長門さんのマンションにお邪魔して、キョンくんと古泉くんのために手作りチョコレートを作った。


 普通のチョコを普通に渡すのもつまらないからと、涼宮さんがお菓子レシピのサイトを検索していた手を急に止めて、

「そうだ。みくるちゃんをかたどって等身大チョコを作りましょう。食べきらなかったら当然死刑よ」

 なんて言い出し、

「了解した」

 と長門さんまで賛同してしまって危うく実現しそうになって一悶着あったけれど……紆余曲折あって結局普通のチョコに落ち着いて、キョンくんも古泉くんも喜んでくれて、ひと安心。

 昨日、ふたりがお返しにくれたクッキーは、キョンくんが古泉くんのマンションに泊まり込みで、一緒に作ったものみたい。なんの変哲もない、星形やハート型のチョコチップクッキー。甘さ控えめでさっくりしていておいしかった。甘くないのになぜだか胸のあたりがぽかぽかになって、胸焼けを起こしそうになったのは……ちょっとだけキョンくんと古泉くんのことを想像してしまったからだと思う。

 ふたりが特別な仲だと知ったのは、ついこの前のこと。

 もちろんびっくりしたし、複雑な気持ちがなかったといえば嘘になるけれど。
 SOS団の大切な仲間が幸せだとあたしも嬉しい。なにより、あの冷静で大人っぽい古泉くんが、まるで子どもみたいに真っ赤になった顔を見せて恥ずかしがっていたのを見たとき、自然と「応援したい!」という気持ちが溢れてくるのが分かった。

 男の子同士だと大変なこともあると思うから、できるだけあたしがふたりを気に掛けてサポートしないと。


 ……


 と、思いながら午後の日の当たる部室でお茶を淹れたあたしは、そっと長門さんのいるサイドテーブルに差し出した。

長門さんは本ではなく、ノートパソコンの画面に集中していた。今はまだ、部室にはあたしと長門さんしか来ていないので、この隙にコンピュータ研究部の活動をしているみたい。

「はい、長門さん、お茶です」

 あたしは少し気になって、そっとパソコンの画面をチラ見していた。


 すると。 


いけません~



「どひゃ――――!!」


 衝撃的な画像を目にしてしまったあたしは心の底から叫び、入部したての頃に涼宮さんに言いつけられていた「ドジっ子メイドたるもの、お茶をこぼしなさい!」を見事に実演してしまう羽目になった。それも、長門さんが膝に乗せているノートパソコンに熱いお茶が直撃。そのしぶきで長門さんの顔や前髪にもかかってしまった。

 パソコンは一気に暗い画面になる。長門さんがパソコンを両手に持ったまま、無言で立ち上がった。

「ご、ごめんなさい! 熱くなかった? やけどしてないっ?」

 あたしは慌てて駆け出し、ロングスカートを邪魔に思いながら、布巾を取ってきて長門さんの顔や足を噴いた。熱湯をあびたはずなのに、雪のような白い肌はいつものようにつるつるしていて、まったく変化していない。

「わたしは平気。それより」

 暗くなってしまったパソコンを、長門さんはいの一番に点検し始めた。すぐに画面が明るくなり、元の画像が映し出される。その、つまり、ああ、ええと……

「よかった。パソコンも無事」

 長門さんはなにごとも無かったかのように、そのパソコンの操作を再開させた。どんな技(情報操作かなぁ……?)を使ったのか、パソコンも無事故だったみたい。それはいいのだけれど、その……あの……ええと……

 例の画像が映し出された画面からは、よく聞き覚えのある、生々しい声が聞こえてくる。

『や、どこ触って……やめてください、ああっ!』

『えへへ、いつきかわいいっ! こうしてやる、うりゃりゃ!』

『ひゃあっ……!』

 あたしは思わずパソコンの画面に手を差し出して、モザイクがかかるように手を上下にばたばた揺らした。

「なななななながとさん、あなたは昼間からがががっこうで、ななななななななにをしているんですかあああああ!」

「ゲーム」

「こここここここれ、これ古泉くんが、古泉くんがああ、キョンくんにい、いいいいい、いいいい!」

 あたしは腕を鳥みたいにぱたぱたさせることしかできなかった。それ以上は口に出しては、とても言えない。あたしは顔を赤くして叫んでいた。

「ながとさん! えっちなことはいけないと思いますっ!」

「これは全年齢向け。大したことはない」

「ひええ。そうなんですかぁ!?」

「そう。この場面で暗転して朝になる」

 見れば、確かにえっちな雰囲気から一転して、ゲームのなかの時間は朝になっていた。

 といっても、ひとつの狭いお布団のなかでキョンくんと古泉くんがお互いを求めるようにひっしと抱き合っていることは変わらないのだけれど……。

 全年齢向けとか18禁とか、そういった問題ではないことに気づいたあたしは、また涙目で叫んだ。

「そっかぁ……それなら安心ね…って、違いますぅ!! これ、いったいぜんたいどういうことなんですか、長門さんが作ったゲームなの?」

 こくん、と長門さんがいつもと何ら変わらない表情で首肯した。

「約一年前に作成した。恋愛シミュレーションゲーム。主人公は彼で、攻略対象は古泉一樹ただ一人。彼らを驚かせる目的は、見事成功。以来、味を占めていろいろと作っている」

「これ声もついてるの? すごくリアルだけど……もしかしてキョンくんたちが喋ってるの!?」

「これは音声合成キャラクター。彼らにアテレコを頼んだら断られたため、普段の彼らの発する声を録音し無数のサンプルを取って、淀みなく音声を読み上げられるようなソフトを作っただけ。簡単」

 そんな頼みを断るのは人として当然だと思うけれど、一応本人たちに頼んでみる長門さんって、やっぱりすごい……。

「……やっぱり長門さんも、知っていたんですね、キョンくんたちのこと……」

「知らないのはここでは涼宮ハルヒだけ」

「そっか……」

 重大な問題だ。あたしは思わず黙り込んで考えてしまった。

 できれば涼宮さんにも本当のことを打ち明けるのが一番いい。それは当のキョンくんたちがよく分かっているだろう。

「四月に向けて新しいゲーム制作に着手する。あなたの協力も必要」

 長門さんはパソコンを閉じて、じっとあたしの目を見上げてきた。

「ええ? あたしも一緒に作るの!? でもあたしはゲームのことなんて、なんにもわからないし……」

「へいき」

 長門さんは窓際に置いてあった読みかけの本を取り出すと、広げて膝の上に置いた。  

「彼らは結婚を誓い合うほどの睦まじい仲。まだ事情があって同棲できずにいる。彼と毎日一緒にいられずに寂しい思いをしている古泉一樹のために、ゲームのなかでも常に彼と時をともに出来るゲームを作る――。このことは他言無用」

「そっか……わかったわ」

 なんだか脅されているような気分になってきたけれど、あたしは思わず拳をつくって承諾した。すぐに部室の扉が静かにノックされて、はい!と返事をすると、キョンくんがやってきた。あたしは慌てて、長門さんのパソコンが見えないように思わず長門さんの前に出てにっこりと笑った。

「こここここんにちは、キョンくんっ!」

「……こんにちは。朝比奈さん。どうかしましたか? なんか慌てて
るみたいですけど」

「なん、なんでもないの。うふふふ」

 あたしは笑ってごまかした。笑顔、ひきつっていたかもしれない。

 もちろん、このことはキョンくんたちには秘密だ。
 涼宮さんにも。

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