5- 仮説
- キョン
- 二人零和有限確定完全情報ゲームに『俺が強い』と表現したが、『おまえが弱い』とも言える。つまりおまえは偶然や運動神経が関わらない、純粋な思考ゲームに弱いということになるな。
- 古泉
- そうなりますね。
- キョン
- おまえの設定、特進クラス所属、長門の小難しい話を難なく理解し、雪山でオイルがどうたらという超高校級の知識を披露し、未来……朝比奈さん(大)から要注意人物と目されるようなキャラクターに対して、『思考ゲームに弱い』というのは不自然だ。となるとまず予想されるのは、おまえはワザと負けている、いわゆる『接待ゲーム』をしているという説だな。運が絡まないゲームなら意図的に負けることが可能だ。
- 古泉
- オイルではなくオイラーです。接待ゲームというのは僕の立場を考慮すると有力な説に思えますね。しかし考えてみてください。その程度のことで僕や機関に特筆すべきメリットがあるでしょうか? 実力に圧倒的な差がある相手にボードゲームで勝利したぐらいで機嫌を良くして、僕たちの意に沿うように動いてくれるあなたではないでしょう。
- キョン
- まあ当然だな。
- 古泉
- それに真剣に『あなたの機嫌を取るための接待ゲーム』をするのであれば、勝負は接戦の末に負けてやるか互角に保つのが最適でしょう。一方的に勝ってもつまらないとあなたも言っていることですし。
毎回同じヤツに勝ちすぎるのもやってて面白いことじゃないしさ。
―涼宮ハルヒの分裂 p110
- キョン
- そんじゃ、おまえはどれだけズタボロに負けるかを追求しているドMだという説はどうだ。『ああっ、もっと僕をメチャクチャにしてください……!』みたいな。
- 古泉
- 僕の品性を貶める妄想はやめてください。ドMは否定しますが、僕が『計算通りの負け方を追求するゲームをしている』という説は完全には否定できないところですね。目指す勝負の結果が逆なだけで、僕としてみれば『惨敗』=『圧勝』というわけですね。
- キョン
- つまりドMと。
- 古泉
- その説を否定するために今すぐあなたに光って唸る拳を思う存分叩きつけてもいいですか?
- キョン
- ダメだ。
***
- 古泉
- では次の説ですが……実は可愛さアピールなんです。
- キョン
- はあ!?
- 古泉
- ほら、僕って文武両道長身痩躯眉目秀麗でしょう? こんな完璧超人な僕がいつも側に居たらあなたのコンプレックスは肥大化の一途をたどり、性格もますますねじ曲がってしまうことでしょう。よって僕はゲームにはダメダメという演出をすることで『あ、なんだ、古泉ってかわいいとこあるじゃん』って思ってもら
- キョン
- お前を殺して機関の出方を見る!! (ガターン!!
- 古泉
- 痛い痛い痛い! すみません僕がイケメンなばっかりに! ハンサムですみませんでした!!
- キョン
- それで謝ってるつもりか貴様ァァ!!
- 古泉
- ぎゃあああ! 顔はやめてください顔だけは!!
- キョン
- まだ言うか―――――!!
***
- 古泉
- ぜいぜい……そうですね、ではこんな説はいかがですか? 僕がこの手のゲームに勝てないのは……思考が読めないのはあなただけ、という仮説です。
- キョン
- なんだそりゃ。
- 古泉
- 僕はあなた以外の相手との対戦であればここまで連敗はしないのです。
そう、世界だとか宇宙だとか未来だとか、そんなもの以前にこの僕自身にとってあなたは最大の謎なのですよ。あなたは涼宮さん以上にその思考、行動が読めません。それはゲームの上においてもなのです。
- キョン
- 人を珍獣か密室殺人事件の現場みたいに言うな。
- 古泉
- それでも勝負を挑むのは、いつかあなたの思考が、あなたの見ているモノが、ゲームを通してその片鱗だけでも垣間見えないだろうかという淡い期待があるのです。将棋でダメなら囲碁を使えばあるいはわかるのではないのか、という具合にね。
- キョン
- ……仮説だよな。
- 古泉
- ええそうです。この説を裏付けるにはデータが不足しすぎています。まずはお互い以外の相手との十分な量の対戦データがなければ。仮説にも満たない空論ですよ。
- キョン
- そうだな。そんなテキトーな説なら俺にだってでっちあげられる。
たとえば、俺がおまえの手の内だけは何故か読める、とかな?
- 古泉
- どういうことでしょう?
- キョン
- おまえの空論とやらを逆にしただけだ。俺はボードゲームに特別強いワケじゃないが、唯一おまえの思考だけは手に取るように先読みできる。ハルヒのように自覚なく。だから勝ち続けられる……という説だ。
- 古泉
- ……仮説、ですよね。
- キョン
- ああそうだ。おまえのデマカセをアレンジしただけの仮説にも満たない空論さ。